こんにちは、フリーランスライターとして活動している伊藤秀和です。
3年前に庄内地方に移住した私ですが、改めて思うことは「人が少ない。」ということ。集まりやイベントはたくさんあるけれど参加者は大体いつもおんなじ…ってことありませんか?
日本は急速に少子高齢化が進行しており、特に地方は顕著で課題も山積み。
(※出典:令和2年 情報通信白書(https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/html/nd121220.html))
上のグラフは日本の人口推移と高齢化推移を表しています。生産年齢人口(15~65歳人口)は1995年以降減少を続け、生産年齢人口の割合は2020年⇒2055年で59.1%⇒51.6%となる見込みです。つまり、向こう30年くらいで主たる働き手が10%近く減るということ。
数字だけ見てもピンとこないかもしれませんが、地域の現場では今まで行ってきた行事や伝統芸能、自治会、消防団など、集落単位で行われてきた活動が存続できるか否か、過渡期を迎えつつあります。それらを担ってきた年配世代から「うちの地域はもうやる人が居ない」「年寄りで何とか続けるしかない」という声が聞こえて来る…。一方、若い世代からは「時間がない。」「地域行事の意味がわからない。」という声が聞こえてくる。
地域の高齢者と若者はいつからすれ違ってしまったのか。いつから地域のシステムが時代に合わなくなってしまったのか。いずれにしてもそんな状態が続けば、互いに無関心になり、"地域づくり”から遠ざかってしまうのではないでしょうか。
地域未来フォーラム2021「地域の未来をアップデート」とは
今を地域で生きる私たちに必要なものは何だろう。そんなことを考えるキッカケになればいう想いでと今回、Sukedachi Creative 庄内さんが地域未来フォーラム「地域の未来をアップデート」を企画されました。それぞれの地域でが抱える諸問題について、庄内に住む参加者同士が対話を通じて地域の在り方や考え方・現状認識をアップデートしていければ、地域はもっと自分事になり、より安心して暮らせていけるんじゃないか、という想いが込められています。
SukedachiCreative庄内とは?
SukedachiCreative庄内は、地域活動する人たちをサポートする中間支援団体。で、行政職員、大学教員、会社役員、地域おこし協力隊OBなど多様な背景を持つメンバーが、地域おこし協力隊や地域づくり活動をする人たち、“地域のこれから”に関心がある人たちへ向けて研修会やワークショップ、フォーラムを開催しています。
コロナ禍ということでオンライン開催となりましたが、三川町子育て交流施設『テオトル』を会場とし、スタッフが集まって3密を避けながら運営されていました。私も当日スタッフの一員として、運営会場の熱量も含めて本記事をお届けできればと思っております。
それでは、どうぞ!
ファシリテーター&話題提供➀ 西直人さん(東北芸術工科大学コミュニティデザイン学科準教授・リードクライム株式会社代表取締役)
最初の話題提供者は西直人さん。西さんはこれまで数々のまちづくり・地域振興・観光に関する企画・運営・計画づくりに携わり、住民主体のワークショップデザインやファシリテーションという役割を担ってきた。一言でいうと地域づくりのスペシャリストです。
そんな西さんが、まずは「なぜ今、地域活動にアップデートが必要なのか?」という方のために、地域活動の組織や運営の仕組みについて、現状と課題をわかりやすく解説してくださいました。
地域のアップデートを考えるときの視点その➀!「ご高齢の「個」への対応」
遊佐町高瀬地区を例にすると、平成3年から31年の間に人口は32%も減っているのに、世帯数は6%しか減っていない事実がある。これは、高齢者の高齢者夫婦のみの世帯が急増していることを意味する。こうしてデータを細かく分析すると、今後の地域づくりで留意するべき視点が見えてきます。
地域のアップデートを考えるときの視点その➁!「まとめることで内容を充実できないか?という視点で見てみること。」
日本のほとんどの地域と同様、庄内も地域ごとに、まちづくりセンター(公民館/コミュニティーセンター)、婦人会、消防団、子ども会、敬老会、その他集落/班ごとの各種組織など…、目的や属性別に非常に多くの団体が存在する。しかしながら、各組織の構成メンバーを確認してみると重複していることが非常に多く、それだけでなく話し合いの内容も重複していることが少なくない。
少子高齢化・人口減少が進むと、当然、地域活動の担い手はさらに減る。これまで以上に一人何役も担わざるをえなくなる。だからこそ、地域活動の組織や運営のスリム化を図ることは当然だが、それ以上に、地域の抱える「人口減少」「少子高齢化」「空き家問題」「担い手・継承者不足」「なりわいづくり/雇用確保」「防災・互助」「つながりの希薄化」などの諸問題をまとめて解決が図れないか・・・「ひとつぶで何度も美味しい?!」合わせ技の解決策を、知恵を出しあい楽しみながら考えることが求められている。
全国的に見ても、たとえば、現在各地で実践されている空き家を利用した観光まちづくりでは、「空き家問題」「雇用確保」「交流人口の増加」など複数の問題の解決を合わせ技で考えている。“富山型デイサービス”の例では、「子ども」「障害者」「高齢者」と従来別々に提供されていた福祉サービスをひとつの場で合わせて提供することで、縦割りの問題を解決するだけでなく、地域内にあらたなつながりを生み「つながりの希薄化」の解消に貢献したりと、ここでも合わせ技での問題解決が図られている。
当たり前を見直し、アップデートしていくことから地域づくりは始まっていく。
西さんから地域のアップデートを考えるための視点例を2つほど話題提供いただきました。さらに「男女平等」「多様性」「ジェンダー」の視点に立つと、これまで地域内で無意識に交わしていた会話が、ときに社会的制裁を受けるほどの問題として扱われるケースになる可能性があるなど。これまでの「当たり前」を見直す必要に迫られていることを教えて頂きました。庄内地方の基幹産業である「農業」についても、急激な気候変動や担い手の高齢化、継承者不足、機械や情報技術の進歩により、これまでの「当たり前」が通用しなくなる時が近づいています。気付いた今から、少しずつアップデートを始めていく必要があるのかもしれません。
話題提供② 田口比呂貴さん
2人目の話題提供者は鶴岡市大鳥地区にお住まいの田口比呂貴さん。今回のイベント企画をしたSukedachi Creative庄内のメンバーでもあります。田口さんは2013年5月~地域おこし協力隊として移住し、現在も同地域に暮らしている。草刈りや、雪下ろしなどの野良仕事を行いながら、地域の民俗調査やネット通販なども行っています。過去には自治会長を経験したことも。地域にどっぷり漬かりながら、地域で活動しています。
田口さんからは「自治会とはなにか」をテーマにお話しして下さいました。自治会というと草刈りや夏祭りなどをイメージされますが、『自ら治める』という根っこに立ち返って地域を捉えなおすと、個々の活動にどんな意味/意義があるのかが見えてくる。
地域で日々行われている個別活動を大きく分類すると、以下の4つとなります。
① 農業・漁業など「生産(生活を守る)」
② 消防団などの「防災(財産を守る)」
③ 水路の草刈り、神社の雪下ろしなどの「共働(環境を守る)」
④ 夏祭りなどの「行事(アイデンティティー・地域らしさを守る)」
地域では消防団活動をしたり、自治会で水路の草刈りをしたり、夏祭りを一緒に楽しんだりしている。日々顔を合わせる中で情報交換をし、冗談言ったり励まし合ったり、個々に協力し合ったり。そんな中で、「あの人、今日は元気だろうか。」「野菜が沢山とれたからおすそ分けしようか」など心を通わせ合いながら、 “いざという時”に助け合える関係性を築いている。この絶え間ない個々の関係性の集合体が地域であり、共同体である、と言います。
大鳥地域は高齢化率70%を超えていて、「地域の担い手を若者に…。」という機運の中から田口さんも自治会長となり、様々な経験をしました。地域文化や風習を大切にしながら、集落の日当の男女差をなくしたり、女性がやってくれていた行事の食事支度を手伝ってみたり。地域の1人1人の声を意識した地域づくりを行いました。
田口さんの話から、「これまで当たり前とされて続けられていたものを、改めて今の時代で考えてみたときに本当にそれでよいかと考えてみる」ことが大事だと実感しました。
話題提供③ 阿部彩人さん
3人目の話題提供は、酒田市大沢地区にお住まいの阿部彩人さん。阿部さんも地域おこし協力隊として2018年に大沢地区に移住し、現在は集落支援員として地域づくり活動に勤しんでいます。SNSやYoutubeなどを駆使して活動を拡張したり、付加価値を加える取り組みをされているのが印象的です。
阿部さんからは「大沢地区での活動について」お話して下さいました。
阿部さんの大沢地区での主な活動
● 大沢「大文字」まづり2020(オンライン)~おうちの中で、大さわぎ。~
● 庄内弁ドラマ「んめちゃ!~LOCAL HEROS~」を制作
● 大沢「大」文字音頭MusicVideo制作
● 大沢伝承芸能「青沢獅子踊り」を3年ぶりに復活
● 大沢の伝承行事取材・動画発信
(さんど小屋・虫送り・百万念仏などの取材)
● 大沢地区のシンボル「大沢「大」文字」に関する保全管理活動
(「大」文字ライトアップ企画など) など
数多くの事業を手掛けながら、1つ1つ創意工夫とメディアを駆使した企画がおもしろい。中でも、阿部さんが移住した年に始めた『大沢「大」文字まづり』は、地元出身のミュージシャンなど豪華なゲストが登場する華やかなもの。一番の見所は大沢の山に草刈りで描かれた『大』文字。これは、大沢の子供たちが大きく育ってほしいという願いと激励のために一人のお爺さんがボランティアで草刈りをして、何年も維持し続けてきたもの。そのおじいさんが亡くなってしまった後も地元住民によって引き継がれ、現在も草刈りを年3回行っている。その大沢地区の人たちの圧倒的な公益精神に光を当て、伝える形がこの『大沢「大」文字まづり』だったのです。トラックの荷台がステージでローカル感満載ですが、逆にそれがかっこいい。2020年もコロナ禍ではありながらオンラインで開催。地域住民の方々を中心に年々参加者も増え、イベントとして定着してきています。
阿部さんが大沢で目指すもの。「若っげ人だぢも関わりたくなるような「おもしぇ」地域づくりどご、していぎっての」と、どこまでも庄内弁で庄内愛が溢れていました 。(笑)
話題提供④ 三浦友加さん、菅原明香さん、佐久間麻都香さん
(タレント・三浦友加さん)
(三川町在住・菅原明香さん)
(SukedachiCreative庄内・佐久間麻都香さん)
3組目のゲストは、タレント・三浦友加さん✕三川町在住・菅原さやかさん✕SukedachiCreative庄内・佐久間麻都香さん。そしてファシリテーターに西直人さん。
地域における男女の役割あるあるについて語られていました。
「地域の運動会で男性は呑んでばっかり。料理の準備も片付けも全部女性がするっておかしくない?料理だって食べられないし…。」「とある学校のPTA規定では『会長は男性がなる』と明記されていて…。地域では決定権のある場に女性が参加できていないよねー。」などなど、思わずうなずいてしまいそうなものばかり。そのおしゃべりは止まらない… (笑)
「地域であなたがアップデートしたいこと」についての対話
最後に、今回のメインとなる参加者同士による「対話」を行いました。「対話」というのは年齢・世代・住む場所の違う人たちが、互いの「考え」や「希望・願い」の違いに耳を傾けるというもの。「地域であなたがアップデートしたいこと」をトークテーマに、4~5人×8グループで行われました。
地域への若者の参加について、地域住民同士の支え合い、伝統行事の担い手不足、デジタル化、プライバシー、セクハラ、パワハラ、モラハラなど…トピックもさまざま。
個人的に印象に残ったのが、参加者の高校生から「中学生になって子ども会を抜けると地域との関わる機会が激減してしまう。もっと関われる機会が欲しい。」という話。地域内の色んな情報が高校生にまで届いていないなど、関わりたい気持ちがあったとしてもキッカケが持てていませんでした。
一方、地域の大人側は「中高生は部活や勉強で忙しいんじゃないかな?」と配慮していたりして、すれ違いが起こっていることがわかりました。
こうしたボタンの掛け違いを対話を通じて1つ1つ擦り合わせ、相互理解に繋げていくことが地域のアップデートに繋がっていくのだと思います。
運営団体 SukedachiCreative庄内の感想
代表 佐久間麻都香さん
鶴岡にきてから14年。今の地域に来て5年。市街地で暮らしていたときには味わうことのなかった生活の大変さと暖かさを感じながら日々を暮らしています。
今回の未来フォーラムは、私たち自身も感じていた、暮らしの中の「違和感」「どうしたらいいのかわからない」「不満と不安」「すれ違い」そんな感情と状況から生まれた企画です。参加していただいた方の中から、多世代間での「対話」を自分の住む地域でもやれたらいいな。そんな声が聞こえてきたことは企画者としてとても嬉しく思います。すぐに何かが大きく変わることはないかもしれませんが、これからも、同じ庄内で暮らすもの同士、楽しく、前向きに未来に向かっていきたいですね。
【h4】副代表 青木啓介さん
地域の役職についている方の、地域への想い、責任感にいつも脱帽する。多くの事業を行い、様々な会議に出席する忙しい毎日。地域計画づくりなどで住民ワークショップをする際は、丁寧に一軒一軒声がけ。参加してくれた方一人一人に来てくれたことへの感謝。「この地域を何とかしたい」という熱い想いに心を打たれたことが何度もある。
いろんな地域にお邪魔して役員の方からよく聞く困りごとが、「どうしたら住民の方に興味、関心をもってもらえるか」。今回のグループワークでも「若い人が地域活動に参加してくれない」「老人クラブに参加してくれない」「お互いが無関心」という話題が上がった。
住民同士で困りごとを解決し合う事例の1つに「ボランティアではなく、有償の仕組みをつくること」をよく耳にする。この事例を紹介させていただいたが、既に有償で除雪をしているという話を伺った。有償で実施しての感想を伺ったところ、「お金のやり取りよりも、サービスを受けた住民から感謝されることが大事。当たり前のようにされると残念に思う。」といったお話があった。近い関係だからこそ、有償にしてもコンビニのような他人同士の「お客様」の関係では割り切れないものがあるんだなと感じた。おそらく、先進事例としてあげられている地域では、支援を受ける方も、支援をされる方のどちらも、人間関係を大切にされているのではないかと思った。先進事例として紹介される表に出る部分ではなく、交流や対話の場をつくり、その地域にあったカタチに少しずつアップデートしてきたのではないかなと。
地域の役員の方の地域への愛情や何とかしたいという想いを丁寧に伝える。住民の方の困りごとや想いや環境に耳を傾ける。新しい事業を立ち上げた場合はその都度、その想いを伝え、実施してみての感想を聞く。公務員として働く自分は普段は、不特定多数の方を対象にする仕事が多い。地域での事業は顔のみえる相手。自分の想いを共感してもらったり、事業に感謝してもらったり。顔の見える関係だからこそ、喜びも大きい。自分も地域づくりの支援をさせていただき、お金ではなく、こういったところにやりがいを感じているなと、「お金よりも住民から感謝されることが大事」という言葉から考えた。
田口比呂貴さん
鶴岡市に移住してから8年が経ち、その間ずっと地域のお世話になってきました。晩御飯に誘ってもらったり、おすそ分けを貰ったり、一緒に汗を流したり。山の業と知恵をたくさん授かってきました。同じ生活空間に人がいることの温かさと安心感は何にも代えがたい生きる糧となっています。
時代の移ろいと共に地域の形が変化してきた事実が地域史にもたくさんに見受けられる。育った時代が異なったことで多様な考えを持つ人たちが同じ地域に暮らしている。それが地域の変化を阻んでいるようにも思えるが、もしかすると過去の先人たちも同じ思いを抱いていたんじゃないかと思う。現状を観察して大切なことを守りながら、丁寧な対話を通じて自分自身も地域も変化していくことが目下、求められていることなのかもしれない。
今回の地域未来フォーラムでは、多世代のプレイヤーが対話を通じて日頃思っている地域の関心事を語り合った。利害関係の薄い間柄で話しやすいことも多々あったと思うけれど、「それぞれが心地よい暮らしを実現していくために自分たちでも出来ることがある、」と言うことに気が付くキッカケに少しでもなったなら、嬉しく思います。
これからも庄内が安心して生活できる空間であり続けますように…。
今回はSukedachiCreative庄内の声掛けとオンライン開催ということもあり、非常に地域✕属性✕年齢幅広く集まった良い会となりました。運営のみなさん、多様な価値観に触れる貴重な場をありがとうございました!持ち帰った学びをぜひ地域の方にも話し、広めていきたいです。
(文:伊藤秀和)
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